味噌の切り返し

 国分寺跡で「万葉花祭り」をやっているなど知らずに、昼間、のこのこと出かけてしまった。普段の静かな寺や、その近辺とは打って変わり…、人人人の山。

 焼きそばだのイカゲソだののブースが並び、あちこちで電気仕掛けの音楽が鳴り響いていた。その上、フラダンスのご披露まで…。
 28年間も国分寺に住みながら、(万葉花祭りの存在は知っていたのだが)あんなに賑やかにイベントを行っていたなどとは知らなかった…。
 人人人の山が、あちこちで花見の酒盛り。桜吹雪の花びらが雪のようにひらひらと舞い散っていた。
 僧侶姿の坊さんが、ごみ整理係りのボランティア。国分寺第一分団の消防車まで参加(?)していて、消防署の人たちが車座になってお昼ごはんのお弁当タイム。みんなの頭に桜の花びらがのっかっていて、なんとも賑やかにして長閑な風景だった。
 唖然茫然としながらも、そんなシュールな風景を楽しみながらマークンと見て歩いた。本来の我々の目的は、修行にも近い静かな湧水汲みのはずだったのだが。

 (そういえば、今日は證善さんのお父様の葬儀の日でもございます。桜の開花に看取られて、そして桜吹雪の中で肉体を無に帰す。美しい季節に召されたものです。ご冥福をお祈りいたします。私は国分寺・万葉まつりの花の中におりました)。

 うちの味噌も国分寺の湧水で仕込む。今シーズの味噌は100k以上だ。そのほとんどの水汲み役はマークン。(あの人は今シーズン、何十回、国分寺跡まで湧水汲みに行ったことか)。

 前振りが長くなってしまった。(普段の湧水汲み現場とのあまりの落差に愕然として、ちょっと疲れてしまった。でも、楽しかったけど)。本日のテーマは「味噌の切り返し」でございます。

 昨年暮れに仕込んだ<酵母パン教室に自生してしまった豆味噌用麹菌種付け>の豆味噌。(大きな漬物容器に三つ)。
 豆味噌を仕込んだ皆様。そろそろ温かくなるので、要注意季節に突入ですよ。切り返し(全体をかき混ぜる意味)の手入れを怠ると、豆味噌の表面にカビが生える季節になりました。(初期的なものは白っぽいカビです。この程度なら、怖がる必要はありませんので、混ぜ込んで構いません)。

 カビを放置しておくと、産膜酵母(無害)がはびこり、その産膜酵母に有害なカビまで住み着き、味噌の表面をカビだらけにしてしまいます。青、赤、黒など、色とりどりのカビを繁殖させてしまっては、底の部分を取り除いて捨てなければいけなくなります。
 そうなる前に、(白っぽいカビのうちに)全体をかき混ぜましょう。有害なカビは混ぜ込むことはできません。

 米や麦などの(でんぷん質系・ジアスターゼ分解成分の多い麹菌)麹を混ぜ込んだ味噌と比べ、味噌玉仕込みの豆味噌(タンパク質・プロテアーゼ分解成分の多い麹菌)はカビが来やすいのです。

 でんぷん質の麹の味噌は、ある意味、放置しておいてもさほど重症にはならないのですが、豆味噌は違います。

 豆味噌は仕込みもさることながら、そのあとの手入れ、つまり育て上げる行為もなかなか手間がかかるものです。(これぞ、まさしく味噌作りの王道と愉しさでございますが…)。

 豆味噌は味噌というよりは、むしろ溜まり醤油作りに近い難しさがあります。仕込んでおけば、あとは勝手に自分で味噌になってくれる米麹味噌などの簡単さとはレベルの違う味噌作りです。育て上げる難しさが、1年近くも続きます。
 このようなことをきちんと認識する人ではないと、豆味噌作りはできません。仕込むだけで、あとは放っておいても出来上がる…というものではありませんから。

 これから温かくなる季節。豆味噌の手入れに追われます。糠味噌漬けの手入れも毎日になります。パン種の手入れ(種継ぎ)も、寒いシーズンほどのずぼらはできません。

 パン種、糠味噌、豆味噌、この三つはとても似通っていて、その根本的な原理やハウツーは同じです。ただ、単に材料が違うだけです。
 最小限の一素材から、環境に生息する菌を増殖させ、自然発酵で「生み出す」。そして、「育て続ける」。育ち上がるまでは、(つまり成熟するまでは)手間も時間もかかります。
 育ちあがると、あとは逆に楽になります。豆味噌も、春と夏の暑い時期を乗り越せば、そのあとの手入れは少し気楽になりますし…。苦労して育て上げた甲斐あって、おいしい手作りの食べ物にもありつけます。

 生み出し、そして、育てるのが、発酵食作りです。普通の料理の感覚とは違います。うちのパン種によるパン作りもほかの種の感覚とは違います。