イカの塩辛

 明日、パン教室なんだから、明日のパンを載せてよ…というモンクもありましょう。めんご、めんご。ははははは。

 晶文社の発酵食本を書きながら写真を撮っている都合上、本日の撮影被写体は「イカの塩辛」になってしまった。めんご、めんご。ははははは。いやあー、ムシムシと暑い日でしたね〜。(話を横道にそらせて誤魔化す)。まあ、イカの塩辛もパンも似たようなものでしょー。(どこが似ているのか?)

 甘酒を使った保存食、イカの塩辛バージョンです。刺身用生イカ重量の4%〜10%の塩と、適量の麹(甘酒)で漬けこみます。3週間以上発酵させて発酵旨味を出したい場合は8〜10%くらいの高塩分で作ります。
 で、私の場合は、とーぜん、発酵のかもし味を出したいので、塩は多め。でも、発酵させると、その塩分作用がうま味に変わり、塩辛さは気にならなくなります。甘酒は発酵促進のため。甘酒の用意がない場合は熱燗の日本酒(もしくは焼酎)に米麹(市販品)を混ぜて数時間置いておき、柔らかく戻してから使ってください。もちろん、塩だけでも作れます。塩は粟国の塩がベスト。うま味が全く違う。

 必ず、刺身用のイカを使ってください。皮の色が濃く、エンペラ(耳)の端が透き通っているものが鮮度いいのです。イカの塩辛はワタ(肝臓)の質が味の決め手。ワタが小さかったり、鮮度が落ちていると、生臭いものになる場合があるので注意。

 胴から、ワタとゲソ(足)を抜きとったら、胴体(縦割りに切るといいでしょう)、ゲソ、ワタに分けます。(それ以外の軟骨や内臓やすみ袋は取り除きます。)分量の塩をまぶして盆笊に広げ、ラップをかぶせず冷蔵庫に一晩(半日)入れておきます。これはイカの水っぽい水分を飛ばして、塩なじみを良くするため。盆笊の下に皿を置いて、にじみ出てくる水分受けにしてね。

 翌日、ゲソは麺棒でバンバン叩いて柔らかくして3cmに切る、胴体も3cmくらいの短冊に切る、ワタは皮から中身をしごき出し、全部をぐちゃぐちゃと混ぜて、甘酒(麹)をイカ1杯につき大匙1ほどを加え、ついでに赤トウガラシの輪切りも適当に混ぜ加えます。
 これを清潔な空きビンに詰めて、最低でも3週間ほど発酵させます。低塩のものは3週間も持たないので、早めにどうぞ。

 途中、発酵するまで何度か全体をかき混ぜて、味なじみを良くします。3週間以上たつと発酵して、やけにメチャうまくなります。

 イカの肝臓には自己消化酵素があり、発酵促進させて旨味出しの働きをします。自己消化酵素とは、死んだ魚介類が身溶けしていくための酵素です。魚のお腹の中(内臓)にもあります。魚介類に分解酵素がなかったら、海も川も魚の死体が累々と積もってしまって、海でも川でもなくなっちゃいますよね。死した動物や人間の肉体が、死後硬直がとけたあとに柔らかくなるのも、分解酵素の働きです。(肉の熟成旨味も、自己消化酵素の働きを利用したものです。)

 生きる肉体は、いずれは死を迎えます。死すれば肉は緩み、そして溶ける。死という現象は無に還るための昇華なんですねえええ〜。

 イカの塩辛で哲学してはあきまへんでえ。

 よーく発酵したイカの塩辛やイワシの切り込みをキムチ仕込みの中に少し入れると美味しいよ。