パン生地を捏ねるには、まだ時間の早すぎる早朝。
昨年11月末の一番初めに仕込んだ早生まれの豆味噌から、たまり醤油を搾り取る。
一番仕込み・早生まれの子は、少量の仕込みなので、たくさんは採れない。2カップほどもあるか、ないかの少量。私にとって、醤油は調味料の最高峰、もっとも貴重な自家製調味料なのでございます。
使う分ずつ、ちびちびと醤油を頂戴するわけだ。(食卓用の醤油さし1本分くらいずつ)。そして、また重めの重石をのせておく。すると、また溜まり醤油がじわーっと湧き上がってくる。焦って急いで採り出そうとしてはダメ。もろみ(豆味噌)が混じって、醤油を濁してしまうから。
この夏、本日で2度目の「たまり醤油戴き」でございます。正直言って、搾り取るという感覚ではないのです。そっと必要分だけ、静にいただく・・という採り方。
市販のしょうゆなどとは比べモノにならないほど旨い、美味しい、素晴らしい風味です。なんて贅沢な喜びなんだろう。大豆と塩だけで、最高に美味しい豆味噌とたまり醤油が生まれてきて、タダでいただけるなんて…。
豆味噌は別名「たまり味噌」とも呼ばれるように、普通の味噌づくりとは違い、醤油と同じ種付けの仕方と仕込み方をします。
種付けに使うのは我が酵母パンに生やす麹カビ。この菌は米用の菌(=でんぷん質分解)ではなく、大豆用の菌(=タンパク質分解)の方のオリゼー菌です。この菌のコウジカビが、うちのパンには自然に生えてくる。全体が巨大なウグイス餅のように、きれいなモスグリーンにふうわりと覆われる。このカビは本当に美しい。
胞子(種麹)を採取して、蒸した大豆に種付けして大豆にコウジカビを増殖させる。そのモスグリーンのカビだらけの大豆を塩水で漬けこんで発酵させる。
塩水を多め(大豆の1.1倍〜1.2倍くらいかな)にして、重めの重石をかけておけば、仕込みから10ヶ月後には溜まり醤油が採れる。そして、その重石の下には美味しい豆味噌がある。
つまり、大豆と塩水だけで仕込み、10ヶ月後には、味噌と醤油の両方がゲットできるという寸法になっているのです。
カビたパンから、最高に美味い味噌と醤油が簡単にできちゃう…と言っても、誰も信じてはくれないかもしれないけれど。(私の作ったものを実際に食べてくれる人と、晶文社の担当編集者くらいだろうなあ、信じてくれるのは…・。)
昔、昔、大昔の日本人がやってきた、今現在は見捨てられた食作り。昔の人たちは最低限の素材だけで、いろいろな調味料を自分で作ってきたんですよ。
自分自身で考えて作りだしてみて、祖先らの労苦や喜びが手に取るように分かるのです。私、今は、米・麦・大豆・塩だけで、日本の食の土台の調味料のほとんどが作れるようになりました。多少の苦労はありますが、それ以上の比べモノにならないくらいの大きな喜びがあるのです。
なんで、こんな美味しいものや喜びを時代の流れとともに捨て去っちゃうのかなあ?
日本古来の質素な穀菜食は、本物の味と滋養の手作り調味料あってのものです。
味噌も醤油も、漬物すらも、まともに作れない人が、マクロブームにのっかっているのを見るだけで、絶望的なまでの矛盾を感じる。伝統食をダサイと見捨てておきながら、なんで、逆輸入の横文字カタカナなら便乗しちゃうのかなあ…。
不平不満をたれるほどに孤独になるから口をつむごう。おっと、9時過ぎた。そろそろパン生地でも仕込むべえか。本日はボシュカルだ。またまた新疆ウィグルあたりまで海外出張(?)だ…。本日も暑くなりそうです。パンの撮影は午後3時ころだな。