柚子味噌クロワッサン


 柚子が出始めるのを待ち望んで、やっと手にした国分寺農家の小さな青柚子。

 初物の柚子の香りと豆味噌の風味を組み合わせ、ペストリー生地を作りたかったのです。

 嬉々としながら柚子の皮を刻み、豆味噌とともに生地に混ぜ込んで、残り少ない半ポンドのバターを折り込み生地で使い果たしました。

 ほどよく気温の下がった夜間。一晩のオーバーナイト二次発酵。

 翌朝7時の焼成開始。

 ありゃりゃんりゃん。ちょっと腰が低いぞよ。

 ヤバイ!中種が、古すぎたようだ…。(4日目の種)

 教室の生徒には常々、「ペストリー生地の中種は、必ず種継ぎしたての新しいものを使うこと」と、のたもうている私。

 嗚呼、それなのに、それなのに。また、やっちまったわ。

 私だけは大丈夫…とばかりに、ふぬけた失敗をば。

 いつもなら、「作りなおそう」と、前向きになるところですが、今回は違う。完璧に後ろ向き。いや、後ろを通りこして、横向きか。

 ストックしておいた業務用無塩バターが、ついに尽き果ててしまった。品薄の入手困難。見かけたとしても<お一人様、1個限り>の限定販売。

 それでも、あるだけマシなほう。全然なくて、代わりにマーガリンなんて、ザラだもんね。

 バターあるのを見つけたら、何度も行ったり来たりで、<お一人様>を3回も4回もやらなければ、必要量を確保できない。バター買うだけで、疲れちゃう。

 教室でも、これから、クロワッサンだの、クグロフだの、シュトレーンだのと、バターを大量に使う冬用のアイテムに入らなければいけない時期なのに。

 ということで、バターゲットのために、お一人様を5回も6回も繰り返さなければいけない最低最悪油地獄ショッピングを再開せねばならぬのじゃ〜。

 鬼とな〜り、蛇とな〜り。(ここで、鼓のポン・ポポポーンという音響が入る)

 歌舞伎のシナリオが書けそうな気分になってきた。

(無意味な発想で、無意味に前向きになる私)。

 我が人生の無意味さはー、大いなる必然の証しぞ〜よおお…。(ここで、カン・カンカカカカーンと、拍子木が鳴る)

(歌舞伎揚げせんべい模様の幕が、静々と引かれる。見え隠れする黒子の足が、物悲しさを語る。暗転)