チョコレートケーキ

 台所の置時計が壊れたわ。

 15年以上も、台所の時を刻み続けたボロ時計。買った時、千円もしなかったシロモノよ。すぐに壊れると思っていたけど、ずいぶんと長持ちしたわ。すごい性能よね。

 壊れる直前に、短い方の針がイカれた。8でもなく9でもない中間部分を差すの。

 「今、何時?」

 「8・5時10分よ」。

 この世の時間とは思えぬ異次元の時間。

 面白いので、そのままにしておいたら、ついに長い針の方もイカれだして、長短2本で一体となり、異次元時間を巡り始めたわ。

 壊れた時計って、なんだか悲しいね。電池が残っている限り、狂った時間を巡らせ続けるのだよ。

 切なくなって、電池を抜いたわ。

 狂った針の動きが、ぴたりと止まった。時計は天国に昇って行きました。長い間、お疲れさまでした。どうも、ありがとう。

 西友に行って、新しい置時計を買ってきたわよ。これも、千円しなかった。

 ピカピカの新品は、正確な時間を刻み始めました。不思議と落ち着かなかった気分が、やっとほっと落ち着きました。

 時計と一緒に新たしいパンツも4枚買ったわ。やぶれた穴ぽことレースのスケスケが一体化して、露出度が高くなった蜘蛛の糸のような古パンツを捨てなくちゃ。

 プライスタグを切り取るとき、老眼のせいで布部分もハサミで切ってしまう粗相が多い昨今。注意深く切り取ったので、今回は新品をすっぱり切っちゃう失敗はなかった。

 時計も正確になったし、新しいパンツも揃ったので。

 教室のお菓子を作ったわ。

 久々に、シンプルなチョコレートケーキです。

 新しい黒いレースのパンツに似ている。

花吹雪

 更年期症状のめまいがする日。

 まるで花吹雪に翻弄されているみたいだわ。

 満開の桜も美しいけれど、花吹雪となって散りゆく桜は、ことさらに美しい。

 うふふふふ。更年期症状なんざ、桜の花吹雪みたいなものざーます。

 国分寺跡の桜群も、満開期すぎて花吹雪が美しかったわよ〜。

 花の季節以外には黙して語らぬ地味な木立ですが。この季節にだけは、自己主張するの。こんなにもある木々が、全部桜の木だったなんて…と唖然とするほどに、サクラ、サクラ、さくら、桜なのよ。

 広い緑の野原が、薄紅色に染まる短い期間。

 わたしゃね、言っておくけど、ビールもワインも持っていかなかったわよ。

 歩き疲れて「ねえ、すわろうよ」花の下に、試食担当部長と二人で座ったわ。部長、何やら袋をガサゴソ。

 取り出しましたものは、缶ビールとワイン。「はい、どうぞ〜」。

 「いえいえ、私は家に仕事を残してきているので、飲まないわ!」と、きっぱり言って、…・ビールもワインも全部飲んだ。

 うまかったわよ〜、喉が乾いていたし。

 花吹雪の中での酒は格別ですな。

 もう一回くらい、花吹雪の花見酒してもいいな。

 なごりおしみのなごり花。

 結局は、がっつり飲んだ…というお話でございました。